「ホーッホケキョ」
ホトトギスの鳴き声をこんなにも鮮明に聴いたのはいつぶりだろうか。
キャンプ場での朝は早い。日が昇るとテントの中が明るくなってくるので、自然と目が覚めるのだ。
慣れないキャンプ用のマットで寝たせいか、少し体が重い気もしないではないが、テントのファスナーを開けて外に出てみる。そこにあるのは大自然が見せる朝の顔だった。
自然を感じる。
気だるい体を起こして外へ出てよかった。この景色を観れるのがキャンプの醍醐味の一つだ。眩い太陽の光に無限大のエネルギーを感じる。日常の朝があまりにも騒がしい生活をしている僕らだからこそ、自然のエネルギーを感じるこの朝は体にも心にも染み渡る。
僕らの日常はあまりにも忙しない。目覚まし時計のやかましい音で眠い頭を起こし、時には朝食も食べずに会社へと向かう。お決まりの満員電車は朝からエネルギーが削がれてしまう。
キャンプとは、自然に従う生き方なのかもしれない。
朝日を目一杯感じて、鳥や動物の鳴き声に耳を澄ます。これから1日が始まることを、僕たちの目の前にある自然が教えてくれるのだ。この瞬間が気持ちよい。なんとも言えない爽快感だ。なぜ、これが気持ち良く感じるのだろう。
それはやはり、人間本来の生き方がアウトドアであったことに起因するのではないだろうか。僕たちの祖先は昔々、幾時も野外で生活をしていた。陽が昇れば1日が始まり、日が沈めば1日が終わりを告げたのだ。世界中のどこかでも、今でもこうした生活をしている人々がまだいるのだと思うと、世界の時代錯誤感がなんだか不思議な気持ちにさせる。
自然に戻る。
キャンプの朝が気持ちいいのは「自然に戻る」からなのだと思う。それは緑豊かな自然という意味ではなく、人間本来が生活していた状態という意味での「自然」である。僕らはもともと外で寝食することが当たり前であった。つまりそれが日常であり、自然体の僕らはそこにあったのである。
キャンプはいわば、昔々の人間本来の生き方の「疑似体験」である。かつては自然体であったその生き方を、現代風にアレンジをしてレジャーとして楽しむものなのだ。
日常が非常に忙しなく働かざるを得なくなった今だからこそ、非日常ではこのゆったりとした自然の中で過ごす非日常を体験して欲しいと思う。
驚きから始まった。
僕がキャンプを始ようと思ったキッカケは、大学生の頃にさかのぼる。日本人なら忘れもしない、東日本大震災がキッカケだったのだ。未曾有の大災害に、ちっぽけな僕みたいな大学生でも力になれないかとボランティア活動を行った。
場所は宮城県の気仙沼市。ボランティアの皆さんはボランティアセンター横の広場でテントを張って泊まり込む。当然僕もその中の一人である。一緒に行った友人のお父さんのテントを借りて初めてのテント設営。それはそれは時間がかかった。その時建てたテントはコールマンのエントリーモデル。今では15分とかからずに設営できるのに、当時は2時間以上かかった記憶がある。隣にいたお兄さんが手伝ってくれてなんとかテントを設営できた僕らだったが、その日は明らかな装備不足による床冷えに苦しんだのもはっきりと覚えている。ただ、床冷えに苦しみながらもテントの中で過ごした一夜は僕にとっては信じられないほどの衝撃を与えたのだった。「外で寝るのってなんて気持ちいいんだろう」ボランティアという身分でもあるため、不謹慎だと思われるかもしれないが、当時の僕はこう思ったのだ。
僕は根っからの野球少年だったので、小さい頃にキャンプをしたことは一度もなかった。だから、この日が人生で初めてテントの中で寝た日だったのだ。
それから日が経ち、社会人となって相方ヤマケンと出会い、どちらから言いだしたかは定かではないがキャンプに熱中することになる。
癒される、キャンプ。
当時の僕らはサラリーマン2年目になったばかり。できることも少しずつ増えてくるのとともに業務量も増えてきて悪戦苦闘している営業マンだった。日々降りかかってくる膨大な量の仕事。毎日朝から晩まで働きづめ。精神的に苦しい時期だったのだ。
そんな時、ふとしたキッカケで行ったキャンプが僕の心を救ってくれた。
「あー、気持ちいい。」
この言葉しか出てこなかった。本当にただただ気持ちよかったのだ。太陽の光、緑生い茂る森、木々が作り出す影、綺麗な水が流れる川。日々の忙しさが大自然の前では何もなかったかのように、心がすっきりしていく感覚があった。
大自然の前では日々の忙しさなんてちっぽけなものなんだ。僕はそう思った。っと同時に、こうも思ったのだ。
「僕と同じような状況の人は、同年代に多いのではないのか?」
大学を卒業し、会社員生活にも慣れてきて、それなりに仕事もできるようになるのと同時にその業務量や内容にストレスを感じ始める。
1年目は新人ということで許されたことも、2年目になれば許されなくなる。当然のことである。後輩もできていろいろとやることが増え、帰りが遅くなってしまうことも。
そんな日常にどこか不満を持っている人がたくさんいるんのではないか。あるいは、もっとヘビーに、俺このままの会社員生活でいいのだろうか。このまま会社の言う通りに働いていればいいのだろうか。こう考え始めた人もいるのではないだろうか。
そんな不満、悩みを持っている人にこそ、キャンプをやってほしい。
東京都内から2時間も車を走らせれば、そこには大自然の中でゆっくり過ごせる場所がある。
毎日時間に追われる度に目にする腕時計を外して、太陽の光の通りに生きる人間本来の生き方を感じて、自分の心の中を整理してほしい。
そんな時間が、キャンプにはあるのだ。
「自然に癒されるキャンプ」というといわゆるオートキャンプブームど真ん中世代の方々に「え、何言ってるの?キャンプってレジャーだぜ。楽しむものでしょ」っと言われる。
この感覚はうまく伝わりきれていないようだ。それでも僕たちがキャンプ旅をして、キャンプの情報を集め、発信し続けたこの1年間で間違いなく、癒しをもとめたキャンプをしている人がたくさんいることがわかった。
ぜひ、あなたにも一歩踏み出して欲しい。意外と簡単に始められるのです。さぁ、あなたもアウトドアの世界へ。
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